Thermalright Assassin Spirit 120 V2 Plus CPUエアクーラーは、5,000円台でデュアルファン構成が手に入る、いわゆる「コスパ枠」の定番的な空冷クーラーです。結論を先に書くと、Core i5 / Ryzen 5 クラスのミドルレンジCPUを定格で使う限りは価格以上に働き、ハイエンドCPUを長時間フル負荷で回す用途には力不足です。この線引きさえ間違えなければ、満足度の高い買い物になります。

概要

本製品は台湾の冷却ブランド Thermalright が展開する空冷クーラーで、高さ154mmのシングルタワー型ヒートシンクに4本の6mmヒートパイプを通し、120mm PWMファンを2基で挟み込むサンドイッチ構成を採ります。ファンは正転の TL-C12C V2 と逆転の TL-C12R V2 の組み合わせで、前から後ろへ一方向に風を流しながら、フィンの表裏で羽根の見え方を揃える狙いがあります。対応ソケットは Intel LGA1700 / LGA1200 / LGA115X と AMD AM4 / AM5 で、現行の主要プラットフォームはひと通りカバーします。

価格帯を考えると、この構成は素直に強い部類です。同じ5,000円前後の価格帯ではシングルファン・ヒートパイプ3本前後という製品が珍しくなく、ファン2基+ヒートパイプ4本はひとつ上の構成にあたります。Amazon.co.jp のレビューは82件で平均4.8(好評率96%、2026年6月21日取得時点)と高評価ですが、件数はまだ多くありません。絶対的な品質保証というより「明らかな地雷ではない」ことの確認材料として読むのが妥当です。

用途別の早見表

想定する構成 判断 理由
Core i5 / Ryzen 5 を定格運用 買ってよい 4本ヒートパイプ+2ファンで余裕がある
Core i7 / Ryzen 7 でゲーム中心 条件付き ケースのエアフロー次第。ケースファン追加が前提
Core i9 / Ryzen 9 のオールコア負荷・OC 見送り 放熱面積が足りず、上位クラスが必要
静音を最優先 条件付き 低負荷は静かだが高回転時は風切り音が出る
小型・スリムケース 要確認 高さ154mmが入るかが最初の関門

重要なのは「条件付き」の行です。このクラスの空冷は、クーラー単体の性能よりもケース内の空気の流れで結果が大きく変わります。前面吸気が足りていないケースに入れると、どんなクーラーでも温まった空気を再循環させるだけになります。クーラーに5,000円を足すより、ケースファンを1基足すほうが温度が下がる場面は実際にあります。

互換性ガイド

取り付けはバックプレートを用いたリテンション方式で、付属ブラケットにより LGA1700 / LGA1200 / LGA115X / AM4 / AM5 に対応します。AMD環境ではマザーボード標準のバックプレートを流用する形式が一般的なので、外したバックプレートを捨てないでください。手順はソケットごとに異なるため、必ず付属マニュアルの該当ページを見ながら進めます。

最初に確認すべきはケースの許容高さです。公称の全高は154mm。ミドルタワーなら多くが160〜170mmの余裕を持っているため問題になりませんが、余裕が2〜3mmしかない場合は避けたほうが安全です。サイドパネルは完全な平面ではなく、内側に防音材が貼られていたり、わずかにたわんだりします。カタログ値ぎりぎりは実運用では干渉しやすい領域です。

メモリとの干渉は、この製品でもっとも相談の多いポイントです。公式の互換性メモにもあるとおり、メモリの高さが44mmを超える場合はデュアルファン運用で干渉する可能性があります。ヒートスプレッダを持たない標準的なDIMMはおおむね32mm前後で収まりますが、大型ヒートシンクやRGBライトバーを載せたDDR5モジュールは40mmを超えるものが珍しくありません。干渉した場合の対処は二つで、前面ファンを上方向にずらすか、前面ファンを外して1基運用にするかです。前者を選ぶとずらした分だけ全高が154mmを超えるため、ケース高さの余裕と引き換えになる点に注意してください。

フォームファクタは ATX / microATX / Mini-ITX に対応と記載がありますが、これは「マザーボードに載るか」の話です。Mini-ITXケースは許容高さが120〜160mm程度と幅があり、実際に入るかはケース側の仕様で決まります。加えてMini-ITXはソケット周辺が窮屈で、タワーがI/Oシュラウドやヒートシンク、グラフィックカードのバックプレートに当たる例があります。小型ケースを検討しているなら、フォームファクタの表記ではなくケースの「CPUクーラー最大高」を根拠にしてください。

電源まわりは4-pin PWMヘッダが必要です。ファンが2基あるので、CPU_FAN と CPU_OPT に分けて挿すか、Y字ケーブルで1つにまとめます。まとめた場合、回転数を読めるのは片方だけになります。メモリ側だけ回転が落ちているといった異常に気付きにくくなるので、個人的には別ヘッダに分けるほうをおすすめします。なお LGA1700 環境で話題になるCPUのたわみは純正ILM側の話で、このクーラーに固有の問題ではありません。

商品情報

主な仕様は次のとおりです。

項目 値
クーラー寸法 (W×D×H) 120×98×154 mm
ファンサイズ 120×120×25 mm ×2(正転+逆転)
ファン回転数 1500 RPM ±10%
ノイズレベル ≤25.6 dBA
最大風量(正転/逆転) 66.17 / 58 CFM
ヒートパイプ 4×6mm
対応ソケット LGA1700 / LGA1200 / LGA115X / AM4 / AM5
コネクタ / 電圧 4-pin PWM / 12V

価格は Amazon.co.jp で ¥5,439(2026年8月26日取得時点)、海外のマーケットプレイスでは eBay US に $35.48(2026年8月3日取得時点)の出品が確認できました。**いずれも取得時点の値で、セールや為替、在庫状況で変動します。**購入前に必ず商品ページで最新の価格を確認してください。

付属品は TL-C12C V2 正転ファンと TL-C12R V2 逆転ファンが各1基、Intel / AMD 用の取り付けブラケット一式、サーマルペースト、ファンクリップ、ゴム製の防振パッドです。グリスが同梱されているので、別途購入せずに組み上げられます。発売は2023年ごろ、メーカー保証は1年です(販売店によって窓口や期間の扱いが異なる場合があるため、購入先の条件も確認してください)。市場での立ち位置はエントリー〜ミドルクラスで、4本ヒートパイプとデュアルファンを5,000円台で成立させている点が、この製品の存在理由そのものです。

冷却性能と静音性の読み方

公称の ≤25.6 dBA は、メーカーの測定条件下での最大回転時の値です。実際の体感はケースの素材、設置場所、耳との距離、机の反響で変わるため、この数字を製品間の絶対比較に使うのは適切ではありません。目安として意味があるのは、上限が1500rpmに抑えられているという事実のほうです。2000rpmを超える高回転ファンを積む製品と比べると、そもそも回り切っても騒がしくなりにくい設計です。

風量が正転66.17 CFM・逆転58 CFM と非対称なのは、羽根形状が異なるためです。サンドイッチ構成では前後の風量が完全に一致しないほうがむしろ普通で、欠陥ではありません。実用上は、前面(正転)が押し込み、背面(逆転)がフィンから熱を引き抜いてケース排気へ受け渡す役割分担になります。

一方で、4本ヒートパイプのシングルタワーという構造上の天井は理解しておく必要があります。デュアルタワー製品と比べるとフィンの総面積が小さく、ファンをいくら回しても逃がせる熱量には上限があるということです。ファンカーブは、低負荷域は静かさを優先して大きく絞り、70℃台に入ってから立ち上げる設定が扱いやすいでしょう。回しっぱなしにしても得られるものが少ないタイプの製品です。

競合製品との比較

同じブランドのデュアルタワー製品(PA120 系など)は、フィン量が増えるぶん高負荷で明確に有利です。ただし重量と全高、メモリ干渉のリスクも上がります。デュアルタワーが入るケースで、Core i7 以上を想定しているなら、そちらを選ぶ価値があります。逆に高さが足りない場合は、全高110mm級の Peerless Assassin 90 SE のような低背モデルが候補になります。

240mm や 360mm の簡易水冷と比較されることもありますが、価格が数倍違ううえ、ポンプという故障点が増えます。5,000円台の空冷と同じ土俵で語るものではありません。静音性と高負荷性能を両立したい、かつ予算を出せるなら水冷、という整理が現実的です。

同価格帯のシングルファン空冷(NZXT T120 のような製品)と比べた場合、見た目の仕上げやブランドのサポート体制では負けることがありますが、冷却の素の力ではファン2基ぶんの差が効きます。Cooler Master Hyper 622 HALO のような6本ヒートパイプのデュアルタワーは価格が一段上がるので、予算が許すならそちらとの二択になります。

取り付けでつまずきやすいところ

  • 順序:ヒートシンクを固定してからファンを取り付けます。先にファンを付けると固定ネジに工具が届きません。
  • 工具:軸の長い#2プラスドライバーが要ります。フィンの隙間からネジを回す構造のため、短いドライバーだと作業になりません。
  • グリス:中央に米粒1粒程度が目安です。塗りすぎても性能は上がらず、はみ出して掃除が面倒になるだけです。
  • 逆転ファンの向き:羽根の形が普通と逆なので、見た目で風向きを判断すると間違えます。フレームの矢印表示を必ず確認してください。
  • メモリ干渉:前面ファンを上にずらすか、外して1基運用にします。前者は全高が増えます。
  • 配線:CPU_FAN と CPU_OPT に分けると、両方の回転数を監視できます。

おすすめユーザー

初めて自作PCを組む人で、クーラーに予算を割きたくない人に最も向きます。Core i5 / Ryzen 5 クラスの定格運用なら、付属グリスも含めて追加出費なしで組み上がり、温度で困る場面はほとんどありません。最初の1台で失敗しにくい選択です。

低負荷時の静かさを重視する人にも合います。上限1500rpmという控えめな設計のおかげで、ブラウジングや動画視聴の領域ではほぼ気にならない水準に収まります。ただし後述のとおり、高負荷時まで無音を期待する製品ではありません。

標準的なミドルタワーに組む人であれば、高さ154mmは安全圏です。逆に、小型ケース前提・ハイエンドCPU前提・RGBで光らせたい、のいずれかに当てはまるなら、この製品は本命にはなりません。

購入前の注意点

**まず、商品ページの登録情報が食い違っていることがあります。**この製品のAmazon掲載情報には、メーカー名として本製品と無関係なストレージメーカーの社名が入っていたほか、参照先によって異なるASINが紐づいていました。本製品の製造元は Thermalright です。誤ったメーカー名を事実として掲げることになるため、本記事では該当の掲載情報ブロックを削除しています。読者の皆さんが商品ページを開いたときにも同じ食い違いを目にする可能性があるので、メーカー欄の表記ではなく、商品画像とタイトル(Assassin Spirit 120 V2 Plus であること)で対象製品を確認してください。

**ハイエンドCPUのフル負荷には向きません。**4本ヒートパイプのシングルタワーという構成は、放熱面積の面で上位クラスに届きません。Core i9 / Ryzen 9 クラスで長時間のレンダリングやエンコードを回す構成なら、デュアルタワーか簡易水冷を選ぶべきです。「とりあえず動く」ことと「安定して性能を引き出せる」ことは別の話です。

**「静音」は低負荷時の話です。**アイドルや軽負荷では十分静かですが、高負荷でファンが上限近くまで回れば風切り音は出ます。常時無音を期待して買うと落胆します。

**見た目の要素はありません。**RGBもなく、仕上げも価格なりです。光るPCを組みたいなら選定対象から外れます。

**型番の取り違えに注意してください。**Thermalright は近い名前の製品を多数展開しており、Assassin Spirit 120 には無印・EVO・V2・Plus といった派生があります。ファン構成もヒートパイプ本数も異なるので、購入時は「V2 Plus」まで一致しているかを確認してください。

**価格は変動します。**本記事の金額はいずれも取得時点の値です。この価格帯は数百円の上下で競合との優劣が入れ替わるため、必ず現在の価格を見て判断してください。

よくある質問

Q. Core i7 / Ryzen 7 でも使えますか。 A.

ゲーム中心の用途であれば現実的な範囲です。ただしケースのエアフローが前提条件になります。前面吸気と背面排気が確保されていないケースでは、温度が想定より上振れします。長時間のオールコア負荷が常態化する用途なら、上位クラスを検討してください。

Q. メモリと干渉しますか。
A. 高さ44mmを超えるモジュールは、デュアルファン運用で干渉する可能性があります。背の高いRGB付きDDR5は要注意です。干渉した場合は前面ファンを上にずらすか、1基運用にしてください。

Q. ファン1基だけで使えますか。
A. 使えます。メモリ干渉を避けたい場合や、静かさを優先したい場合は現実的な選択です。当然ながら高負荷時の温度は2基構成より不利になります。

Q. LGA1851(Core Ultra)には対応しますか。 A.

公称の対応ソケット一覧は LGA1700 / LGA1200 / LGA115X / AM4 / AM5 で、LGA1851 の記載はありません。本記事では対応を保証できません。メーカーの最新の対応表、または別売ブラケットの有無を確認してください。

Q. グリスは別途買う必要がありますか。
A. サーマルペーストが同梱されているため、そのまま組み上げられます。より高性能なグリスへの交換は可能ですが、このクラスの製品では温度差より手間のほうが大きくなりがちです。

Q. 簡易水冷とどちらを選ぶべきですか。 A.

予算が5,000円台で、CPUがミドルレンジなら本製品で十分です。静音性と高負荷性能を両立させたい、かつ予算を大きく積めるなら240mm以上の水冷が選択肢になります。ポンプという可動部品が増えることは把握しておいてください。