はじめに
グラフィックボードの補助電源に、CPU用の8ピン(EPS)ケーブルを押し込んでしまった。
差した瞬間に「パチッ」と音がして、その後カードは起動こそするものの、まともには使えなくなった。
結果から書くと、壊れていたのは電力を測るための小さなチップ2個でした。どちらも自分で交換して、カードは元どおりに動いています。
この記事では、何を調べ、どう切り分け、どこでつまずいたかを順番に残します。同じ失敗をした人の手がかりになれば幸いです。
起きた症状
- 映像は出る。ただし画面が安定せず、赤・緑・青の色がチラチラと走る
- 負荷をかけると、落ちはしないが動作がガクガクになる
- GPU-Z で見ると、8ピン入力の電力・PCIe スロットの電力・ボード全体の電力が、すべてゼロのまま動かない
最後の症状がいちばんの手がかりでした。
カードが動いている以上、電気は流れています。それなのに「流れている量」だけが読めない。つまり、壊れているのは電源そのものではなく、電力を測る側の回路の可能性が高い、という見当がつきます。
原因:EPS と PCIe の8ピンは「形が似ているだけの別物」
どちらも8ピンで見た目はよく似ていますが、中身の並びが違います。
- PCIe 8ピン(グラボ用):+12V が3本、残りが GND と検出用のピン
- EPS 8ピン(CPU用):片側の列がすべて +12V、反対の列がすべて GND
本来はツメの形が違うので挿さらないのですが、力を入れると入ってしまいます。
そうすると、EPS 側の +12V が、カード側では GND のはずのピンに当たる。
12V がそのまま GND に短絡し、電源ユニットの保護が働くまでの一瞬、大きな電流が流れます。「パチッ」の正体はこれです。
GND を基準に動いている回路、とくに電力を測るための細い検出線と監視用のチップは、この一瞬に巻き込まれやすい位置にあります。
調べたこと
1. どの基板なのかを特定する
修理の第一歩は、手元のカードがどの設計に基づいているかを知ることです。
GPU-Z で読めるサブシステム ID から、メーカーは GALAX(影驰)、製品は 星曜 OC と分かりました。
基板には部品番号(シルク印刷の U○○、R○○)が印刷されているので、これを手がかりに部品を一つずつ確かめながら進めます。
2. 写真で基板を読む

カードを分解し、基板の表と裏を撮影しました。
最初の写真は照明の映り込みで細かい文字が読めず、真上から明るく撮り直したものでようやく判別できるようになりました。部品の刻印を読むなら、基板と平行に、映り込みを避けて接写するのが大事です。
写真から確認できたこと:
| 部品 | 役割 | 見た目の状態 |
|---|---|---|
| MP2884A | GPU コアの電圧を作るコントローラ | 焦げなし |
| uS5650P | 8ピンとスロットの電流を測る電力監視チップ(最初はメモリ用のコントローラと見誤った) | 焦げなし |
| R005(5mΩ のシャント抵抗) | 8ピンから流れる電流を測るための抵抗 | 焦げ・割れなし |
| 8ピンコネクタの半田 | 入力部 | 異常なし |
| 12V 入力側の大きなパッド4つ | もともと部品を載せない空きの場所 | 問題なし |
派手な焦げ跡は、どこにも見当たりませんでした。
映像が出ていることと合わせて考えると、GPU 本体とコア・メモリの電源回路の根幹は生きている見込みが高い。一方で、電力表示が全滅していることから、監視用のチップかその周辺が内部で壊れている、という見立てになります。
3. 通電せずに測る場所を決める
短絡が残ったまま電源を入れると、被害が広がります。そこで、電源を入れずにテスターだけで測る手順を先に組みました。優先順は次のとおりです。
- 12V 入力と GND の間が短絡していないか(最優先)
8ピンの 12V ピンと、ネジ穴などの GND の間を抵抗・導通モードで測る。ここがゼロなら、入力側の部品が壊れている。見つけて外すまで通電しない。
12V ピンの見分け方は、シャント抵抗の端子と導通があるピンが 12V、ネジ穴と導通があるピンが GND。 - シャント抵抗が切れていないか
正常ならほぼゼロ。測定値が無限大なら焼け切れている。 - コアとメモリの電源ライン全体が短絡していないか
大きな出力コンデンサの端子と GND の間。電源の出口は元々抵抗が低いので、低めの値は正常。完全にゼロなら異常。
実機の写真にこの測定点を番号付きで重ねた図を作り、印刷して手元に置けるようにしました。
4. 第1回の測定
- 12V 入力と GND:ブザーは鳴らず、抵抗モードでは値が上がり続けた(コンデンサが充電されている動き)。短絡は無い
- シャント抵抗:0.05Ω と表示された。本当の値の 5mΩ はテスターでは読み切れないが、切れてはいない
- 電源ライン:コンデンサはおおむね 0.3Ω。チョークは 0.3Ω のものと 40Ω のものに分かれた。値が二通りに分かれるのは別々の電源系統だからで、どちらもゼロではない。カードが起動して計算も正しく動く以上、主要な系統に致命的な短絡は無い
入力側は無事でした。「パチッ」の後でも、12V の入口そのものは生き残っていたことになります。
5. 読み直して、本命が見つかった
測定の結果を見直している途中で、思い違いに気づきました。
写真から「メモリ用の電圧コントローラ」だと判断していた uS5650P は、調べ直すと電力監視用のチップでした。8ピン2本と PCIe スロットのシャント抵抗から電圧を読み取り、GPU に「今どれだけ電力を使っているか」を伝えるチップです。
GPU-Z の電力表示が全部ゼロになる症状と、そのままぴったり合います。
入力側の 12V が無事でシャント抵抗も切れていないなら、残る候補はこのチップ本体か、シャント抵抗からこのチップまでの細い配線です。
誤挿入の瞬間、12V が GND 側に流れ込んだことで、チップの GND の電位が一瞬持ち上がったと考えられます。そうなると、シャントにつながる入力ピンが、チップから見て大きくマイナスの電圧にさらされます。監視チップの入力ピンは、GND より低い電圧に弱い作りです。見た目に焦げが無いのに中だけ壊れる、典型的な形です。
6. 手元に残っていた記録
このカードは、映像を別のグラボに任せて AI の処理に使っていました。そのとき冷却の具合を確かめるために取っていた記録を見直すと、答えの半分がすでにそこにありました。
- 負荷をかけている最中も、消費電力の表示は 0W のまま
- コアのクロックは負荷に応じてしっかり上がっていて、絞られてはいない
- 室温に近い温度でも、ファンがほぼ全開で回り続けている
電力が読めていないことは、これで確定です。一方で、クロックが絞られていない以上、「電力が読めないから性能が抑えられてガクガクする」という最初の見立ては外れていました。
電力が読めないと、もう一つ困ったことが起きます。ドライバは電力をまだ使っていないと思い込むので、本来かかるはずの電力の上限が効きません。直るまでの間は、クロックの上限を下げて使うのが安全です。
もう一つ分かったのは、4 つある入力が全部同時にゼロになっていることです。配線が 1 本切れただけなら、ゼロになるのはその 1 つだけのはずです。全部が止まっているなら、チップ本体か、その電源か、チップを動かすための信号か、GPU へ値を渡す出口か、どれか共通の 1 か所が怪しい。次の測定はそこに絞りました。
7. 顕微鏡で見つかった熱の跡



デジタル顕微鏡を使って、電力監視チップのまわりを一本ずつテスターで当たっていきました。入力の線、電源の線、GPU へ値を渡す出口。どれも切れてもいなければ、短絡してもいませんでした。配線は生きているのに、チップが何も返してこない。
決め手になったのは、同じ型番の別のチップとの見比べでした。基板の裏にはもう一つ、同じチップが載っています。そちらの端子の半田は、どれも丸くなめらかに揃っています。ところが問題のチップは、4 辺のうち 2 辺だけ、半田がザラついて白っぽく、一部はパッドの外にはみ出して固まっていました。
ピンの役目を調べると、荒れていた 2 辺は、8 ピンやスロットの 12V の線にじかにつながるピンだけでした。GPU 側へ値を渡すピンや、チップの電源のピンが並ぶ残りの 2 辺はきれいなままです。
挿し間違えた瞬間、12V の線と GND が入れ替わって大きな電流が流れました。その電流が、12V の線にじかにつながっていたこのチップの入力ピンを通り抜け、半田が溶けるほどの熱を出した。そう考えると、見た目に焦げが無いのに中だけ壊れた理由も、ピンの荒れ方の偏りも説明がつきます。
8. チップを交換したら、今度は起動しなくなった
ホットエアで古いチップを外し、新品を付けました。ところが、PC に挿してもカードが認識されません。ファンも回りません。
原因は、新しいチップの端子が、溶けて付いたように見えて、実は基板に付いていなかったことでした。
この監視チップは「入力の電圧は正常」という合図を出す役目があり、それがカード全体の電源を入れていく順番に関わっているようです。チップが付いていなければ合図が出ず、カードは起動の途中で止まります。壊れていた古いチップは、この合図だけは邪魔していなかったので、それまでは起動できていたわけです。
付け直すと、カードは無事に認識されました。
9. 起動したのに、値がおかしい
ところが今度は、GPU-Z に出る電圧が、スロットも 8 ピンも揃って 4V 台。本当は 12V あるはずです。電流も桁違いに小さく、ドライバは「電力の上限に達した」と勘違いして、クロックを大きく下げていました。直す前より、性能はむしろ落ちていました。
3 つの入力が揃って同じ割合でずれている、というのが手がかりでした。入力ごとの配線の不良なら、ずれ方はバラバラになるはずです。全部に共通する部分を疑って、チップの資料(データシート)を読み直しました。
分かったのは、裏に載っているもう 1 つの同じチップと、GPU への出口の線を共有して、交代で値を送る作りになっていることでした。片方が値を送っている間、もう片方は線から手を離す決まりです。裏のチップも 8 ピンの線にじかにつながっていて、挿し間違いの瞬間には同じように巻き込まれていました。
7 節で「きれいな比較対象」にしたのが、まさにこの裏のチップです。端子の半田はきれいでも、中は壊れていた。表のチップを新品にしても、壊れたままの裏のチップが線から手を離さず、正しい値を引き下げていたのです。電圧がおよそ 3/8 に縮んでいたことも、測るたびに値がぶれたことも、これで説明がつきます。
結果
直った
裏のチップも新品に付け替えたところ、GPU-Z の電圧はスロット・8 ピンとも 12.1〜12.3V に戻りました。
| 項目 | 修理前 | 表のチップだけ交換 | 両方交換 |
|---|---|---|---|
| スロット・8ピンの電圧表示 | 読めない | 4V 台 | 12V 台 |
| 負荷中の電力表示 | 0W | 十数W | 300W 台 |
| 電力の上限 | 効かない | 誤作動で絞りすぎ | 上限の手前で正しく頭打ち |
| ファン | 低温でも全開 | 止まったまま | 温度に合わせて回る |
| 画面の表示 | 色がちらつく | 確かめていない | ちらつき無し |
ビデオメモリの読み書きの検査でも、食い違いは出ていません。
最初に悩まされていた画面のちらつきも消えました。ちらつきの原因を個別に切り分けたわけではありません。ただ、電力監視の故障と同時に起き、2つのチップの交換で一緒に消えたので、関係していた可能性が高いと見ています。
壊れていたもの
- 表の電力監視チップ(8 ピンとスロットの電流を測る)
- 裏の電力監視チップ(8 ピンの電流を測る。表のチップと出口の線を共有)
どちらも見た目に焦げは無く、表のチップは 12V の線につながる側の端子だけ、半田に熱の跡が残っていました。裏のチップは、見た目には異常がありませんでした。
使った道具
- デジタルテスター(抵抗・導通・ダイオードの各モード)
- デジタル顕微鏡(揺れないようにアームや三脚で固定。吊るすと揺れて使いものにならない)
- ホットエア(リワークステーション)と、基板を下から温めるホットプレート
- フラックス、イソプロピルアルコール(洗浄用)、半田吸い取り線、共晶半田、先の細いピンセット
- 耐熱テープとアルミテープ(周りの部品を熱から守る)
- 交換用のチップ(失敗に備えて予備も)
作業で引っかかったところ
- チップ側の細かい端子に予備の半田をのせようとして、うまくいかなかった。 半田は基板のパッドに薄く均一にのせ、チップ側は真ん中の GND パッドだけにする方が確実でした。
- 溶けて付いたように見えても、付いていないことがある。 交換したら、電源を入れる前に全部の端子を測り、交換前の値と比べる。
- 冷えるまでチップを押さえつけるのは逆効果になりうる。 真ん中の半田が押し出されて、チップの下で端子とつながる恐れがあります。表面張力で自然に沈んで寄るのを待つのが正解です。
- テスターの「0.L」は、つながっていないという意味。 ゼロと見間違えると、正反対の判断をしてしまいます。