9.7Lに322mmのGPUが入る
THOR ZONE の MJOLNIR は、内容積9.7リットルで最大322mmのグラフィックボードを収めるMini-ITXケースです。この数字の組み合わせがこのケースの全てで、他はその結論に向けて削り込まれています。
322mmという長さは、ハイエンドの3連ファンモデルがそのまま入る寸法です。それを、A4用紙より小さい底面積の筐体に収めています。
寸法と対応部品
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 内容積 | 9.7L |
| 外形寸法 | 幅131 × 奥行354 × 高さ209 mm |
| 対応GPU長 | 最大322mm |
| 対応GPU厚 | 最大46mm |
| CPUクーラー全高 | 最大51mm(空冷) |
| 簡易水冷 | 120mm / 240mm |
| 電源規格 | SFX / SFX-L |
| メモリ全高 | 最大55mm |
| ストレージ | 2.5インチ×2 + M.2 |
| ケースファン | 120×25mm または 120×15mm を2基 |
| 素材 | 6061アルミ、肉厚5mm |
| 重量 | 3.6kg(パフォーマンスパネル)/ 3.4kg(強化ガラス) |
240mmの簡易水冷を入れる場合、電源はSFXに限られます。SFX-Lを選ぶと奥行が伸びてラジエーターと干渉するためです。
5mm厚の削り出しという選択
このケースは6061アルミの塊から削り出した5mm厚の壁でできています。同じ容量帯のケースがスチール0.8〜1.0mmの板金であることを考えると、極端な作りです。
その代償が重量です。3.4〜3.6kgは、9.7Lという容積からは重い部類に入ります。中身を組んだ状態では5kgを超えるはずで、片手で持ち運ぶ想定のケースではありません。
一方で、この厚みは剛性と共振の少なさに効きます。薄い板金の小型ケースはファンの振動が筐体に伝わって固有の音を出しますが、5mmの塊はそれが起きにくい。「小さくて静か」を成立させるための厚みです。
エアフローの考え方
サンドイッチ構造で、片側にマザーボード、反対側にGPUを配置します。この形式はGPUとCPUの排熱が独立するのが利点で、片方の熱がもう片方に回り込みません。
注意すべきはGPUの厚み46mmという上限です。3連ファンの分厚いモデルは46mmを超えることがあり、長さ322mmをクリアしていても厚みで落ちる場合があります。長さだけ見て選ぶと入りません。
さらに公式が触れているのが、PCIe補助電源のコネクタとケーブルで約22mm嵩むという点です。GPUの基板上面から電源コネクタが立っている設計だと、この22mmが効いてきます。L字型の変換コネクタや、コネクタが背面側を向いたモデルを選ぶ余地があります。
誰に向くか
- ハイエンドGPUを積んだうえで、机の上に置ける大きさに収めたい人
- 削り出しの質感と剛性に価値を感じる人
- 一度組んだら基本的に動かさない使い方をする人
誰に向かないか
- 持ち運びたい人。 組み上げると5kg超になります
- 3.5インチHDDを使いたい人。 搭載できません
- 空冷の大型クーラーを載せたい人。 全高51mmは、ロープロファイル級のトップフロークーラーに限られます
- 組み立ての手間を避けたい人。 サンドイッチ構造はライザーケーブルの取り回しがあり、通常のATXケースより工程が多くなります
大手の同容量帯との違い
9〜10L帯には Cooler Master NR200 系(18L相当)より小さく、Fractal Terra(10.4L)と近い製品が並びます。ただしTerraが木材前面とスチール筐体で意匠を作っているのに対し、MJOLNIR はアルミの塊を削るという方向に振っています。
そしてGPU長322mmは、この容量帯では長い部類です。10L前後のケースは280〜300mm前後で止まるものが多く、そこを超えたことがこの製品の存在理由になっています。
組む前に確認しておくこと
小型ケースは「入る/入らない」が数mmで決まります。以下は仕様表からは読み取れないが、実際に組む段階で効いてくる点です。
ライザーケーブルの世代
サンドイッチ構造はGPUをライザーケーブルで接続します。PCIe 4.0以降のGPUを使う場合、ライザーも同世代に対応した品である必要があります。 世代が足りないと、起動はするのに帯域が半分になったり、そもそも認識しなかったりします。同梱品の対応世代は購入前に確認してください。
不安定な場合、UEFIでPCIeの世代を1段下げると安定することがあります。ゲーム用途であれば4.0を3.0に落としても実性能の差はごく小さく、動かないより現実的な妥協点です。
電源の奥行と、ケーブルの太さ
SFXは規格上100mmですが、SFX-Lは130mmになります。240mmラジエーターを入れる構成でSFX-Lを選べない理由がここにあります。
見落としやすいのがケーブルの太さと曲げ半径です。奥行が収まっても、24ピンやPCIe補助電源の根元が曲がりきらず蓋が閉まらないことがあります。純正ケーブルが硬い電源では、カスタムの短尺・柔軟ケーブルへの交換が事実上の必須になります。この費用を最初から見込んでおくと計算が狂いません。
GPU厚46mmの数え方
スロット数での表記(2スロット、2.5スロットなど)は各社で基準が揺れます。1スロット=約20.32mmが原寸なので、46mmは概ね2.25スロット相当です。「2.5スロット」と書かれたカードは50mm前後になることが多く、この時点で入りません。
確実なのはメーカー公表の厚み実測値(mm)で確認することです。バックプレートの出っ張りやヒートパイプの飛び出しが公表値に含まれていない例もあるため、余裕は数mm見ておくのが安全です。
CPUクーラー51mmの現実
全高51mmは、いわゆるロープロファイルのトップフロー型に限られます。この高さ帯は選択肢が少なく、冷却性能もタワー型には及びません。TDPの高いCPUを載せると、クーラーが先に頭打ちになります。
実務的には、電力制限(PL1/PL2、あるいはPPT)をUEFIで絞る前提で組むほうが結果が良くなります。上限を落としても実性能の低下は一桁パーセントに収まることが多く、温度と騒音は大きく下がります。小型ケースは「フル性能で回す箱」ではなく「制限をかけて成立させる箱」だと考えたほうが失敗しません。
2.5インチ2台の置き場所
2.5インチを2台載せられますが、搭載位置がエアフローの経路と重なる構成では、風の通りを塞ぎます。 M.2で足りるなら2.5インチは載せないほうが温度面では有利です。容量が必要なら、外付けやネットワーク側へ逃がす選択も検討に値します。
メモリ55mmという上限
ヒートスプレッダの高い、いわゆるゲーミング向けメモリは40〜50mm前後のものがあります。55mmは余裕があるように見えますが、簡易水冷のラジエーターやファンがメモリの真上に来る配置では、この上限より先にファンと干渉します。 背の低いメモリを選んでおくと、後から構成を変えるときに詰まりません。
削り出し筐体特有の注意
アルミの塊は熱を受け止めますが、同時によく伝えます。 動作中の筐体表面は素材が薄い鋼板ケースより温かくなります。異常ではありませんが、机上での置き場所(他の機器との近接、木材面への直置き)は考えておいてください。
またネジは筐体側もアルミです。締めすぎるとネジ山を潰します。 分解と組み立てを繰り返す前提なら、トルクをかけすぎないことと、必要ならヘリサート等の補強を検討することです。
実際の消費電力と発熱の考え方
9.7Lという容積は、内部の空気が数秒で入れ替わる程度の量しかありません。つまり吸気温度がそのまま部品温度に効きます。室温が5℃上がれば、部品温度もおおむね同じだけ上がると考えて構いません。
夏場に高負荷をかける想定があるなら、GPUとCPUの合計消費電力を先に決めてから部品を選ぶ順序が合理的です。容積に対して熱量が多すぎる構成は、どれだけファンを足しても解決しません。
入手について
執筆時点で公式サイトに価格の記載がありません。「Restocking Late August」という在庫の告知が出ている状態で、常時在庫がある製品ではありません。
日本の正規代理店は確認できませんでした。購入は公式サイトからの直販が基本になり、国際送料と輸入時の関税・消費税が別途かかります。小規模メーカーの製品は再入荷の間隔が読めないため、欲しい時期が決まっているなら入荷告知を追う必要があります。
なお中古市場に流れることがありますが、削り出しケースは輸送時の打痕が目立つため、状態の確認は慎重に行ってください。
掲載している製品画像は THOR ZONE 公式サイトのものです。





